~海外展開先行で世界的ブランド確立~

◆楽器愛好家に知られる「Ibanez」ギターと「TAMA」ドラムは、星野楽器(名
古屋市東区)が世界に展開する独自ブランドだ。同社は現存する書店では名古
屋最古といわれる星野書店の楽器部として1908年に創業。29年に分社独立して
設立された。エレキギターの製造技術確立後は、調査・企画・設計・開発に注
力。Ibanezギターは68年に他社での委託生産へと方針転換してから成長してき
た。「ファブレス経営」を半世紀前から実践している先進性は特筆に価する。
一方のTAMAドラムは自社工場による一貫生産体制を堅持。ものづくり企業とし
て気高い職人気質を誇る。同社は2大ブランドの展開で、長きにわたって無借
金経営を続けている。

◆後にIbanezの知名度を世界レベルに引き上げる原動力となった、人気バンド
KISSのフロントマンであるポール・スタンレーの名を冠したシグネチャーモデ
ル「PS-10」は、国内より海外展開先行を重視した星野義裕会長が72年、フィ
ラデルフィアに設立したHOSHINO U.S.A.で早速現地採用したマーケティングに
強いジェフ・ハッセルバーガー氏が、才能を認めていたスタンレーに取ったコ
ンタクトを機に生まれた。星野公秀社長は氏の先見性を評価するが、氏を採用
した同社が秀逸だったといわねばなるまい。

◆HOSHINO U.S.A.は、90年にロサンゼルス支店として設置したアーティスト
リレーション(ミュージシャンへの楽器の修理・調整などの便宜供与をはじめ
とする総合サポート)部門を拠点に、自社スタッフで全米各地の需要調査を今
も進めている。徹底した現地調査体制はエンドースメント契約(有名人と肖像
権利用や商品化権などで結んだ契約に基づく商品販売)に至る人選力を育み、
オランダのHOSHINO EUROPEや中国の広州星野楽器貿易有限公司などにも受け継
がれている。

◆こうして蓄積した情報を入念に精査し、1~2年後のトレンドにマッチすると
予測できる性能やデザインのギターを開発するのが星野楽器の手法だ。研ぎ澄
まされた調査・人選力は、アルカトラズなどで知られるスティーヴ・ヴァイの
シグネチャーモデル「JEM」と7弦ギター「ユニヴァース」の商品化によって結
実し、Ibanezのステータスを異次元レベルへ一挙に押し上げた。以来30年、並
み居る強豪(競合)を退けて「AZ」シリーズは「スーパーストラト」カテゴリー
で世界の頂点に君臨している。

◆失敗を恐れず積極果敢に挑戦させる企業風土や先取の気性、海外市場シェア
率の高さが志願者のみならず親にも理解され、同社には全国から優秀な人材が
集まっている。社員の能力や適性を見定めて最適配置を行う人事や、消費者、
小売・代理店の声を製品や販促策に落とし込み、これらステークホルダーとの
良好な関係維持に努めるなどの経営術が奏功。同社の楽器とエフェクターは初
心者から名立たるプロミュージシャンまで広く愛用されている。コロナ禍でも
ユニクロとのコラボTシャツを販売するなど、底堅いブランド力も発揮してい
る。(編集子)