~「恩送り」で医療関係者もカカオ農家も元気に~

◆「ペイフォワード」という言葉をご存じだろうか。誰かから親切なことをさ
れると、その誰かに何かをお返しする「恩返し」はよくある。これに対し、別
の誰かにお返しして、別の誰かはさらに別の人にお返しする。受け取った善意
を、与えてくれた人に返すのではなく、別の人に与える「恩送り」の考え方で
ある。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった4月、この考え方を実行し
たのが、チョコレートを製造・販売するDari K(京都市北区)だ。

◆同社のチョコレートは、インドネシア・スラウェシ島の農家を指導して栽培
・発酵したカカオ豆を直接仕入れており、カカオ豆の新鮮さを生かした美味し
さが強みだ。ところがコロナの影響で3月から売り上げが大幅に減少し、4月の
売上高は前月に比べて7割も激減した。駅の土産物店などからの返品が相次ぎ、
一時は在庫が3カ月分以上も積み上がった。

◆インドネシアのカカオ豆の収穫時期は5~6月がピーク。このままでは現地に
500軒ある契約農家から買い取ることさえ難しくなり、農家の収入が激減する
ことが予想された。一方で医師や看護師ら医療関係者は、感染の恐怖と闘いな
がら日々最前線で働いていることが報道された。顧客からは「コロナ禍の中で
休む暇もなく働いている医療関係者に対して何かできないか」という声が届い
ていた。

◆そこで同社は、チョコレートの消費者と医療従事者、さらにはカカオ豆の生
産者をつなげる仕組みを考案。消費者は同社の商品を購入し、同社は購入金額
と同額のチョコレートを医療従事者に寄贈してほっと一息ついてもらい、さら
にはカカオの買い付けを続けられるという「皆がウィン・ウィンになれる」取
り組みを4月21日に始めた。

◆「最初は2週間で500セットも売れないだろうと考えていた」と吉野慶一社長。
だが発売して5日目に500セットを上回り、5月末までに3500件もの賛同者がペ
イフォワード商品を購入した。そして7月末までに全国28医療機関に勤務する
7万人の医療従事者にチョコレートを贈ることができた。送料を負担して購入
金額と同額の商品を贈るという仕組みは「正直言って赤字」。ただ複数のメデ
ィアが取り上げ、オンラインショップを中心に売り上げは前年の2割減にまで
回復した。

◆8月には第2弾として、手作りトリュフとドライフルーツなどをセットにした
「ペイフォワード・アグロフォレストリーセット」を商品化。直射日光に弱い
カカオの木を守る「日影樹」を混植する「アグロフォレストリー」を進めるた
め、売り上げの3%をドリアンやココナッツなどの苗木の購入費に充て、現地
農家に配布した。コロナ禍の中で生み出された「恩送り」の試みは、まだ続き
そうだ。(編集子)