~「首からぶら下げる」柔軟な発想~

◆新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、影響を受けた業種の一つが理容・美
容業だ。「髪を切る、洗う、染める」「顔を剃る」といった理美容サービスを
提供する上で「3密」の一つである「密接」が避けられないからである。最初
に緊急事態宣言が出た2020年4~5月は理容室や美容院に足を運ぶ人が激減し、
大幅な減収や休業が相次いだ。

◆そうした状況に対し、いち早く美容業界向け専用のフェイスシールドを商品
化したのが真辺工業(広島県府中市)だ。一般的なフェイスシールドのように
頭部に装着するのではなく、「首からぶら下げる」という方法を考案。顧客が
装着したまま、髪を切ったり、洗ったり、染めたりできる。一般的なフェイス
シールドやマスクを着けたままでは難しい普段の美容サービスを提供できる上、
飛沫感染などの危険性から開放される。

◆形状は一般的なフェイスシールドを逆さまにしたような姿をしている。顧客
はステンレス製のフレームを持ち、樹脂製のシールド先端を額に当てるだけで、
後は美容師がネックストラップを締めて固定する。シールドの位置は個人単位
で調整でき、フレーム部分は300回以上の繰り返し使用が可能。シールド部分
はその都度取り外して交換し、清潔なシールドを常に用意できる。

◆開発したきっかけは、「コロナの感染リスクに晒されている医療従事者らに
貢献できれば」と考えた真邉崇正社長が、一般向けフェイスシールドを4月中
旬に開発・発売したことだ。府中市内で美容院を経営している友人が聞きつけ、
「美容院向けもつくってもらえないか」と相談された。顔にフィットするよう
形状を工夫し、首からぶら下げるところまで到達するのに何度も試作を繰り返
した。

◆また素早く製品化するため、地元製造業の若手経営者に協力を呼びかけた。
この結果、板金・曲げ加工は五敬工業(福山市)、ステンレス部分の塗装は
府中メッキ(府中市)、ネックストラップなどの部品調達は伊豆義(福山市)
が担い、5月中旬には商品を完成。ネット販売を中心に、美容業界向けだけで
150万円以上を売り上げた。

◆実は真辺工業は、アルミ・マグネシウム合金製をはじめとした自動車部品製
造が主力。75台以上の工作機械を備え、1次サプライヤーを通じて自動車メー
カーにエンジンやトランスミッション部品を供給しており、フェイスシールド
はまったくの専門外だ。とはいえ、門外漢だからこそ、「首からぶら下げる」
という柔軟な発想とスピーディーな商品化を可能にしたともいえる。中国や米
国市場の好調を受けて自動車需要は急回復しているが、真邉社長は「美容業界
向けのフェイスシールドはいまだに競合製品が出てこないため、今後も販売を
継続する」と力を込める。(編集子)